みなさんは、老後の生活費について、どのようにお考えでしょうか。
日本の年金制度は脆弱で、平均寿命は伸び、「老後2000万円問題」の記憶も新しいことから、老後資金に対して不安を感じている方も多いでしょう。
では、お金の心配なく老後の生活を送るには、どのくらいのお金が必要で、それをどのように準備すればいいのでしょうか。
そこでこの記事では、「老後に必要な生活費」と「それを準備する手段」について、具体的なシミュレーションを交えて、ご紹介します。
※著者である私は、証券外務員2級と保険販売の資格を持ち、銀行で金融商品の営業経験があります
この記事の目次
老後資金と人々の意思
まずは、老後資金に対して人々はどのように考えているのか見ていきましょう。
令和元年に行われた生命保険文化センターの調査によると、老後生活に対して不安を感じている人は、全体の84.4%にも昇りました。
そして、その多くは、「公的年金が不十分であること」という経済的な理由を挙げています。
さらに、「公的年金だけで日常生活費をまかなうことはできない」と考えている人が全体の78.7%に及ぶことからも、人々が公的年金に対する大きな不安を抱えているとわかります。
貯蓄や保険で対策してる人が6割ほど
また、多くの人はこの不安を払拭するため、なんらかの形で老後資金の準備を行なっています。
同機関の調査によると、その割合は65.9%で、貯蓄や保険で対策を立てる人が多く見られました。
このようなデータを踏まえると、約8割もの人々が、公的年金が不十分であることによる老後資金の不安を抱えており、
約7割の人々がそれに対する資金準備を行なっていることになります。
データから老後は20年あると予想できる
長寿国として知られる日本人の平均寿命は、約84歳(男性81.25歳、女性87.32歳、平成30年の調査による)です。
また、生命保険文化センターの調査では、老後資金の使用開始年齢の平均は65.9歳でした。
つまり、平均を見ても老後は20年あり、私達は事前に、公的年金でまかなえない20年分の生活資金を用意しておかなければならないのです。
老後に必要な最低限の生活費は?
前章では、「公的年金が不十分であること」「老後資金をなんらかの形で用意しておかなければならないこと」についてご説明しました。
では、老後の生活に必要な生活費は、具体的にいくらくらいになるのでしょうか。
まずは、老後に必要な最低限の生活費について、一人暮らしと夫婦暮らしの2パターンでシミュレーションしてみましょう。
一人暮らしの生活費シミュレーション
総務省の家計調査によると、高齢一人暮らし(無職世帯)の場合の1ヶ月の生活費は、以下のような項目及び金額で構成されるのが平均的です。
- 食費 36,378円
- 住居費 18,268円
- 光熱・水道費 13,109円
- 家具・家事用品費 4,780円
- 被服費 3,766円
- 保険医療費 8,286円
- 交通・通信費 14,405円
- 娯楽費 17,082円
- 交際費 18,281円
- その他 15,248円
- 合計 149,603円
(総務省2018年度家計調査「総世帯および単身世帯の家計収支」より)
つまり、一人暮らしの高齢者には、1ヶ月に約15万円の生活費が必要であることがわかります。
おひとりさまとはいえ、毎月の固定費は馬鹿になりませんね。
ただし、これは最低限の水準であり、趣味や娯楽のための費用は大きく含まれていません。
また、住居費の要・不要によっても、必要生活費には差が生じます。
夫婦暮らしの生活費シミュレーション
総務省の家計調査によると、高齢夫婦二人暮らし(無職世帯)の場合の1ヶ月の生活費は、以下のような項目及び金額で構成されるのが平均的です。
- 食費 65,319円
- 住居費 13,625円
- 光熱・水道費 19,905円
- 家具・家事用品費 9,385円
- 被服費 6,171円
- 保険医療費 15,181円
- 交通・通信費 28,071円
- 娯楽費 24,239円
- 交際費 25,596円
- その他 28,123円
- 合計 235,615円
(総務省2018年度家計調査「総世帯および単身世帯の家計収支」より)
このシミュレーションからは、夫婦暮らしの高齢者には、1ヶ月に約24万円の生活費が必要であることがわかります。
ただし、こちらも前章同様、あくまで最低限の水準です。
生命保険文化センターの同調査でも、老後の夫婦暮らしに必要だと考えられている最低生活費は約22.1万円と、同水準の結果が出ています。
ライフスタイルや環境は人それぞれなので、生活費にも個人差は生じるでしょう。
ゆとりある老後に必要な生活費は?
前章では最低限の生活費についてシミュレーションしました。
では、ゆとりのある暮らしを送るためには、いくらの生活費が必要なのでしょうか。
この点についても、一人暮らしと夫婦暮らしの2パターンで、順にシミュレーションしてみましょう。
一人暮らしの生活費シミュレーション
ゆとりある生活のために、最低生活費に上乗せが必要だと考えられる額は、平均で14万円(夫婦二人暮らしを基準)でした。
出典:生命保険文化センターの調査(
一人暮らしの場合は仮に半額の7万円としておきましょう。
では実際に、先ほどご紹介した一人暮らしの最低生活費のシミュレーションに上乗せしてみます。
- 最低生活費 149,603円
- ゆとりの上乗せ額 70,000円
- 合計 219,603円
このシミュレーションでは、ゆとりのある老後の一人暮らしを送るには、月約22万円の生活費が必要だということになります。
夫婦暮らしの生活費シミュレーション
次に、夫婦二人暮らしのゆとりある生活費を、先述の最低生活費に上乗せしてシミュレーションしてみます。
- 最低生活費 235,615円
- ゆとりの上乗せ額 140,000円
- 合計 375,615円
このシミュレーションでは、夫婦二人で老後のゆとりある生活を送るためには、約37万円の生活費が必要であることがわかります。
つまり、ゆとりある生活には、定年を迎え給与所得がないにも関わらず、毎月40万円に近い費用が必要になるのです。
生活レベルによって必要額は異なる
ただし、ゆとりある生活のための上乗せ額には個人差があります。
調査でも、ゆとりの上乗せ額は必要ないという人から月に30万円以上必要という人まで、その答えには幅がありました。
大きな費用のかかる旅行を楽しみたいのか、ちょっとした趣味を楽しみたいのかによっても、その基準は変わります。
そのため、この上乗せ額は自身のライフスタイルやライフプランに応じて決定した方がいいでしょう。
老後の生活費が大きく変わる要素
ここまでにも触れたように、老後の生活費は、それぞれのライフスタイルや環境、ライフプランによって大きく変わります。
ここでは、その主な要素について見ていきましょう。
賃貸か持ち家か
住む家が賃貸か持ち家かによって、老後の生活費は大きく変わります。
総務省による2018年の調査では、高齢単身世帯の借家率は33.5%、高齢夫婦世帯の借家率は12.5%となっており、老齢世帯の一定数が借家の家賃を支払っていることがわかります。
先述のシミュレーションによる住居費は、賃貸と持ち家を合わせた平均値であるため、その額は1万〜2万円程度です。
しかし、実際の借家の家賃は、約55,000万円が平均であるため、家賃の年間総額は66万円にも及び、出費の大きな部分を占めることになるでしょう。
※出典:総務省の調査(
残ってるローンも考慮に入れよう
とはいえ、持ち家であっても、住宅ローンが残っている場合には、住居費の支出は多くなります。
このように、借家の賃貸料や住宅ローンの支払いは、老後の生活に影響を与える大きな要素のひとつです。
老後資金について考える時には、これらの額を必ず確認しておきましょう。
趣味を楽しみたいなら
仕事を退職した老後には、存分に趣味を楽しみたいと思っている方も多いでしょう。
高齢者は、ガーデニングや読書、映画・美術鑑賞、カラオケなどを楽しむ人が多いですが、これらを趣味とするにはある程度の費用が必要です。
一回の出費は数千円程度でも、それが重なれば年間数万円にもなるでしょう。
シニアを対象としたある調査によると、趣味に使う金額は年間約12万円という結果も出されています。
また、老後に旅行を楽しみたいのであれば、より多くの資金が必要になります。
1回の旅行の平均金額は約5万円ですが、シニアが1年に使う旅行資金は約18万円というデータもあります。
このように、趣味には費用がかかります。老後にガーデニングや旅行を楽しみたいのなら、それを見据えた資金計画が必要でしょう。
人付き合いが多いなら
老後の生活費は、人付き合いによっても左右されます。友人や家族が多ければ、交際費は上記シミュレーションよりも嵩むでしょう。
また、シニア世代は孫のための出費が多いのも特徴です。
ソニー生命の調査によると、調査対象のシニアが孫に使った金額は、1年間で約13万円にもなりました。
孫の数や家族との付き合いによっても必要になる費用の額は変わりますが、充実した老後を送るためにも、人付き合いのための資金は確保しておきたいですね。
老人ホームに入るのに必要なお金
将来的に老人ホームに入ることを検討しているなら、そのための費用についても考えておかなければなりません。
老人ホームには公的施設と民間施設があり、それぞれ月額料金に加え、入居時の一時金が必要になります。
月額料金は、公的施設であれば6〜30万円、民間施設であれば10〜30万円ほどが相場です。
一時金は施設によって大きな差があり、数億円が必要な施設も、一時金不要の施設もあります。
必要な費用は1年で280万円
介護付きや住宅型、特養など、選ぶ施設の種類によっても料金は変わりますが、どちらにせよ、老人ホームに入るためには多額の費用が必要です。
例えば、入居一時金が100万円で月額料金が15万円の施設を利用するとしても、必要な費用は1年で280万円、5年で1,000万円、10年で1,900万円にもなるのです。
このように、老人ホームへの入居には多額の費用が必要であるため、検討する場合には、早い段階から資金計画に組み込んでおく必要があります。
こんな出費にも備えておきたい
ここからは、さらに備えておきたい老後資金について考えていきましょう。
老後にも税金はかかる
老後の出費で忘れてはいけないのが、税金。
老後であっても払わなければならない税金はあります。老後に支払う主な税金の項目は以下になります。
- 固定資産税
- 自動車税
- 住民税
- 消費税
- 所得税
年金所得に関しては、65歳未満は108万円以下(基礎控除38万+公的年金控除70万)、
65歳以上の場合は158万円以下(基礎控除38万+公的年金控除120万)まで非課税になります。
定年後に国民健康保険へ加入する
さらに、老後には健康保険料も払い続けなければなりません。
特に会社勤めだった人の場合は、定年後に国民健康保険へ加入し直す必要があります。
健康保険料の金額は所得や自治体によって差がありますが、月数万円は見ておいた方が良いでしょう。
老後の万が一に備えられる資金
シニア世代は病気や介護、死亡のリスクにも備えておかなければなりません。
もしもの時に備えがなければ、十分な治療や介護が受けられない可能性があります。
厚生労働省の調査によると、平成28年の65歳以上の年間医療費の平均は約72万円でした。
実際の負担は一部(70歳まで3割、70〜75歳まで2割もしくは3割、75歳以上1割もしくは3割)になりますが、それだけでも年間約20万円もの費用がかかります。
また、介護が必要になった場合の月々の介護費用は約8万円とも言われ、さらに万が一の場合のお葬式にも費用はかかります。
安心して暮らすためにも、健康で長生きするためにも、このような万が一に備える資金は必要でしょう。
持ち家でも修繕が必要になることも
先ほど、持ち家が賃貸かによって老後の住居費負担は変わるとご紹介しました。
しかし、持ち家であれば全く費用がかからないというわけではありません。
毎年の固定資産税以外にも、経年に伴う修繕やリフォーム、バリアフリー化など、家に手を入れなければならないケースはあるでしょう。
そうなれば、何十万、何百万円単位の費用が必要になります。
老後の資金計画は、このような住まいにかかる費用についても考慮しておかなければなりません。
老後の生活費を補う手段
ここまで、老後に必要な生活費についてご説明してきました。
では、シニアの人々はその生活費をどのようにして賄っているのでしょうか?
生命保険文化センターの調査によると、老後の生活費を賄うためには、以下のような手段が選択されています。
- 公的年金
- 企業年金・退職金
- 貯蓄
- 保険(個人年金保険、生命保険等)
- 有価証券
- 不動産収入
- 老後の勤労による収入
- 子どもによる援助
中でも、生活費を賄う手段として公的年金を挙げた人の割合が最も多く、継いで貯蓄、企業年金・退職金、保険となりました。
つまり、公的年金の不足を賄うためには、企業年金や退職金を利用する他にも、事前に貯蓄や保険の用意をしておく必要があるのです。
年金はいくら、いつからもらえるのか
先述の通り、公的年金だけでは、生活費は十分ではありません。しかし、年金が老後の大切な生活資金の一部であることは確かです。
では、その年金はいくら、そしていつからもらえるのでしょうか。
もらえる国民年金の額は、保険料の納付月数によって決まります。
そして、40年欠かさず納付した場合は満額で、その額は約65,000円です。
しかし、大学卒業が22歳であることから、実際には40年丸々納付している人は少なく、需給の平均額は約56,000円になります。
会社員のもらえる年金目安は月20万円
また、会社員や公務員の場合は、国民年金に加えて厚生年金を受け取ることができますが、その平均額は146,000円です。
ただしこの額は、納付月数や在職中の収入額によって異なるため、個人差があります。
つまり、国民年金のみ受給する場合(自営業や主婦など)は56,000円、
国民年金に加え厚生年金を受給する場合は56,000円+146,000円(平均)が、もらえる年金の目安となります。
最大42%の年金額の増額が可能
次に、年金の受け取り時期について見ていきます。
近年、年金の繰り上げ繰り下げ受給については、メディアに取り上げられる機会が増えており、耳にしたことがある人も多いでしょう。
年金は、本来65歳からの受給が基本です。
しかし、年金の受け取り時期は70歳まで繰り下げが可能で、それにより、最大42%の年金額の増額が可能になっています。
この増額率は大きいですが、それが得かどうかは、年金を何歳まで受け取れるかにもよります。
60歳まで受け取り時期を繰り下げることも可能
また、60歳まで受け取り時期を繰り下げることも可能で、その場合の年金額は一定の減額がなされます。
このように、年金の受け取りは、希望によって60歳〜70歳の間で開始できます。
増額率や減額率も考え、それぞれの資金計画やライフプランに合わせて選択するといいでしょう。
老後の生活に必要な貯金額はいくらなのか
ここまでご紹介してきたことを踏まえ、老後の生活に必要な貯金額の目安を算出してみましょう。
最低限の生活の貯金額
まずは、老後を20年として、最低限の暮らしを送るための貯蓄額を算出します。
一人暮らしの場合
- 月の生活費149,603円×12ヶ月×20年=約35,900,000円
- 年金額56,000円(国民年金の平均)×12ヶ月×20年=約13,400,000円
→差額の約22,500,000円が、年金以外の手段による用意が必要な金額
夫婦暮らしの場合
- 月の生活費235,615円×12ヶ月×20年=約56,500,000円
- 年金額56,000円(国民年金の平均)×2人分×12ヶ月×20年=約26,800,000円
→差額の約29,700,000円が、年金以外の手段による用意が必要な金額
ゆとりある生活の貯金額
次に、老後を20年として、ゆとりある暮らしを送るための貯蓄額を算出します。
一人暮らしの場合
- 月の生活費219,603円×12ヶ月×20年=約52,700,000円
- 年金額56,000円(国民年金の平均)×12ヶ月×20年=約13,400,000円
→差額の約39,300,000円が、年金以外の手段による用意が必要な金額
夫婦暮らしの場合
- 月の生活費375,615円×12ヶ月×20年=約90,100,000円
- 年金額56,000円(国民年金の平均)×2人分×12ヶ月×20年=約26,800,000円
→差額の約63,300,000円が、年金以外の手段による用意が必要な金額
このように、老後の生活費を賄うためには、多額の貯金や投資による準備が必要です。
つまり、「老後2,000万円問題」もあながち間違ってはいないのです。
ただし、これはあくまで目安のシミュレーションです。
算出に用いた年金額は厚生年金を含んでおらず、個々の生活の仕方や節約への意識によって必要な生活費は変わります。
準備は入念に、しかし過度な心配はせず、工夫しながら老後に備えられるといいですね。
老後の生活困窮を避けるために
昨今、高齢化や平均寿命の上昇、核家族化などを背景に、生活に困窮する高齢者が増加しています。
年金の未来は不確かであり、今の現役世代が年金を受け取る頃には、さらにその額が減少している可能性もゼロではありません。
老後の貧乏や金銭的不安は避けたいところですが、ここではその対策を2点挙げておきましょう。
計画的な資金計画を
老後の生活困窮を避けるためには、早いうちから資金計画を立てておきましょう。
まずは、ここまでにご紹介した情報を参考に、自身の家庭に必要な老後資金を割り出し、それを何で賄うかプランを立てます。
老後資金を賄う手段は、年金の他には貯蓄と運用が主ですが、どちらの場合も早く検討しておかなければ、必要な成果は出せません。
老後のお金は自分で用意する
また、貯蓄はお金を貯める方法として確実ですが、近年は預金利率が非常に低いため、保険や投資信託、不動産などの運用を考えるのもひとつでしょう。
ただし、これらには一定のリスクもあるため、その点をよく理解し、リスク管理をしておくことが大切です。
どの手段をえらぶにせよ、老後の生活を安定させるためには、事前の綿密な資金計画とその実行・管理が必要です。
定年後の労働も検討
老後の生活困窮を避けるためには、定年後の労働も視野に入れておきましょう。
僅かな額であっても定年後の収入があれば、生活は随分安定します。
一日数時間、週に何日か働いて、数万円を得るだけでも、生活のゆとりは大きく変わるでしょう。
人と関わることで精神も充実
近年では高齢者の雇用が増えており、シニアならではの知識や経験を生かせる仕事も多数存在します。
定年後に仕事をすることは、金銭面だけでなく、体力的・精神的な豊かさにも繋がるので、
生活をあらゆる面で充実させるためにも、定年後の労働は有効でしょう。
【まとめ】早いうちから老後資金を準備しよう
老後の生活費について、必要金額や捻出方法など、さまざまな面からご紹介しました。
老後の時間は長くなり、それに伴って老後に必要な費用も増えています。
しかし、計画的な資金計画を立て、準備をきちんとしておけば、むやみに心配する必要はありません。
老後の時間が長くなるということは、本来喜ばしいこと。
きちんとお金の管理をし、家族との時間や趣味を大切にしながら、金銭的にも精神的にも豊かな老後を過ごしたいですね。